Monica Zetterlund & Bill Evans -- "Waltz For Debby"


 このところ数回、ジャズでもやや外角気味の球を投げてきた感じがしないでもない。自分的には結構いいタマを投げたつもりなのだが、バッター席からは「そんなへなちょこダマでは打ち返しもできない!一度直球を投げてみろ」とのヤジもあり・・・。

というわけで、今回は、定番というかこれぞモダンジャズ時代の傑作と言われてきたものをアップしてみよう。蘊蓄の方はいつもの 'ぐだぐだノリ' でご勘弁を・・・

さて・・・Waltz For Debby っていえば、なんたって Bill Evans Trio。 61年の Riverside 四部作の一枚と話は決まっている。例のシンプルなシルエットと共に Bill Evans のリリカルな節回しが心に焼き付いて離れないというファンも多いと思う。実際ジャズ入門の書籍をめくると、まず初っ端のページに Debby のシルエットが出ていて、「まずはこれを聴いてみろ、良さが直感できなかったヤツは即刻回れ右っ!」などと書いてある。(実際のところ Scott LaFaro のベースソロが始まるあたりから回れ右をしちゃったという人の話はよく聞くところだが・・・)

Debby の名盤としてもう一つよく取り上げられるのが、今日ご紹介の Monica Zetterlund の同名盤だ。これが録音されたのは1964年、東海道新幹線が開通して、東京オリンピックが開催された年だ・・・ボクはといえば、鼻を垂らして野原を駆け回り、街におりては、当時出始めた「色のついたテレビ」を観るために電気屋さんの前に並んで、高度成長期の華やかなイベントを眺めていた頃だ。

学生時代、ジャズ雑誌にこのアルバムのジャケット写真が出ていて、やはりこれを聴いてわからなかった者は回れ右だとか書いてあったような気がする。数年遅れとはいえ、リアルタイムでこういう楽曲を聴いていたのだと思うと、いまさらながら自分の歳を意識してしまう。その頃のボクがこの盤を聴いてどれほど理解できていたかわからないが、ジャズに向かう道を回れ右しなかったことだけは事実である。

ボクがボーカルの良さがわかってきたのは、まだほんの数年前の話だ。知識としてはいくらかあるし、また何気なくわかったような感じで長年聴いてはきたのだが、そこはかとなく心に沁み込んでくる感じ、聴きながら「なぜに目から汗が?」・・・てな思いは、ごくごく最近の話なのだ。

こうなるともう「この人は歌がうまいね」なんて薄っぺらな会話がすごく嫌になるし、そういう事を言う人に出会うと絶交宣言をしたくなる。「回れ右をせよ!」と書いていた当時の評論家さん達の境地に近付いてきたのかもしれないね。

ところで Monica Zetterland の盤をもう一度押し入れの奥からひっぱり出してきたのは、次のビデオクリップを観たのがきっかけだった。安直な「ようつべ」リンクで恐縮だが、まずは次を見てくだされ。

  http://www.youtube.com/watch?v=8tp-nbchmHU

  嗚呼・・・なんというカッコ良さ!

テレビ番組の一シーンらしいけど、当時 Sweden ではこんな格調高い番組をやっていたんだねぇ。
いわゆる歌唱力が飛びぬけて高いわけじゃないけど、じわーーんと心の懐に潜り込んでくるようなこの歌い方が何とも言えない。Bill Evans もリラックスして伴奏に徹している。Seeing is believing!・・・ごの盤は、まさにこのヴィデオのイメージから入ると、より理解できそうな気がする。

さて、Monica Zetterlund はもうこの世の人ではない。

その事を知ったのは、TJCのメンバーでもある Hummock Cafe の中村さんのところで開かれた Johan Chrirsther Schutz さんのライブの時だった。Sweden人と話をするのは初めてだったのだが、同郷人とは言え、モダンジャズ時代の歌手を若いアーティストが知っているのかどうかを確かめたくなって、ライブ終了後に尋ねてみた。

「知るも知らぬもありませんよ・・・スウェーデン人ならみんな知ってますよ!」

・・・そんな返事であった。同時に彼女が、2005年に住まいのアパートの火事で焼死した事実もいろいろと語ってくれた。晩年は、車椅子の一人暮らしで、恐らく逃げ遅れて亡くなられたのだという。

国民的なヒロインにしては意外で哀れな亡くなり方だな・・・率直なところそう思った。いな、偉業を成し遂げた人物の晩年こそ、往々にしてそのようなものなのかもしれないな・・・とも。

哀れ・・・

上記ヴィデオの中の Monica はまだ20代半ば、ややアンニュイに見せてはいるがやはり若い!モノクロ画像を通しても、頬がはちきれんばかりの生気に満ちていることがわかる。この時代から50年・・・この歳月に思いを馳せて、彼女のWalz For Debby を聴くと、また味わいが一段と深くなってくる。



(筆:しろくま)


  • 2010.11.03 Wednesday
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